トム・ハーゲンの母親は目をわずらい、彼が11歳の時に死んだ。 父親は大酒のみで救い用のないアルコール中毒になっていた。
大工としては素晴らしい腕を持ち、正直一徹の男だったが、結局酒が彼の家族を破滅へと追いやり、彼自身にとっても命取りとなる。
トム・ハーゲンは孤児となり、街をうろつき回ったり人の家の玄関先で眠るようになった。ハーゲン自身も目を患っていた。
近所の人々は母親から伝染ったか遺伝したものだろうから、彼から伝染させられるかもしれないと噂しあい、彼は一人ぽっちになった。
(略)死ぬ前に母親が盲目になったことが彼を怯えさせ、自分が眼病におかされた時には、不吉な運命の予感におののいたものだった。
自分も盲目になると思い込んでしまったのだ。 (略)そんな時、少年だったソニー・コルレオーネが彼を自宅に連れていき、両親に向かって彼を今日からここに住まわせると宣言した。
トムの前には油をたっぷり使った熱いトマトソーススパゲティの皿が並べられ、また金属製の折り畳み式ベッドが与えられた。 ごく自然に、言葉に出したり話し合いということはまったくせずにドン・コルレオーネは少年が自宅に住み着くことを許した。
それどころか、ドン・コルレオーネ自身が彼を目の専門医のところに連れていき、彼の眼病は遠からず全快した。大学にも法科大学院にも行かせてくれた。
この間ドンは父親よりも後見人といった立場でハーゲンに接し、愛情を見せないかわりに息子たちに対するよりも思いやりを示し、彼に自分の意見を押し付けようとはしなかった。
(略)トム・ハーゲンは感謝の気持ちを込めながらドンに言った。「僕はあなたのために働きたいんです」 ゴッドファーザー 原作 マリオ・プーゾ 訳 一ノ瀬直二