「森の野球は面白くない」。先頭打者が出れば、初回でもバントで送らせる。判で押したような手堅い攻撃に、アンチの声は少なくなかった。当然、森の耳にも届いていた。

「よく言われたな。そこで一番大事なのは、ファンは何を望んでいるのか、ということよ。『面白かったから、今日は負けてもよかった』というファンばかりなら、気楽よ。
だけど、ファンが本当に喜んでくれるのは、応援しているチームが勝つことよ。勝つことが最大のプレゼントでしょう」

「もう足し算、引き算の世界なんだな。たとえば、4点取れば、5点取られなければ負けない。そこに1点加えれば、相手は6点取らないと勝てない。何点も取ったから『好きにやれよ』で点が入らなかったら、後悔につながる。それがないように。
面白くないと言われようが、勝てば選手は喜ぶ。日本シリーズ優勝の瞬間。ベンチから飛び出す選手たちに演出は何もない。人間の自然な姿。あれを見たら、やっぱり勝たなきゃいかん。負けてよかったとやるのは、弱いチームよ」